シャープがEMS(電子機器の受託製造サービス)で世界最大手の鴻海(ホンハイ)精密工業との資本業務提携を発表したが、 これは実質的には鴻海によるシャープの「買収」と見ていい。この先、シャープにどんな道が待っているか考えてみたい。
■売上高は鴻海9兆7000億円に対しシャープ2兆5500億円
シャープは3月27日、台湾・鴻海精密工業と資本業務提携すると発表した。鴻海グループは、シャープが実施する670億円の 第三者割当増資を引き受け、議決権ベースで9.99%を持つ筆頭株主となる。
鴻海は、この10年で世界トップのEMSメーカーになったチャイワン(中国・台湾)の代表的な企業である。1974年に設立された台湾・高雄の会社だが、1993年に中国に進出して積極的に投資し、深?市にある生産子会社の工場群では100万人を雇用し、急成長した。
この資本業務提携はシャープにとってどういう意味を持つのだろうか。それを考えるため、まずは両社の主な経営指標を比較してみよう。
売上高を見ると、シャープが2兆5500億円、鴻海が3兆4526億台湾ドル(約9兆7000億円)。デジタルテレビの需要が一巡したので、シャープの売上高は低迷している。一方、鴻海の売上高がこれだけ大きいのは、中国に生産拠点がある系列のFOXCON社がアップル
のiPhone、iPadなどの生産で好調なことが影響している。
続いて、純損益は、シャープが2900億円の純損失であるのに対し、鴻海は771億台湾ドル(2159億円)の純利益となっている。
これらの経営指標を見てもわかるように、今回の第三者割当増資で何が起こったかといえば、「資本業務提携」というよりも、これはもう「買収」なのである。実質的には、業績好調な鴻海が経営不振のシャープを買収したと見ていい。
(>>2以降に続く)
http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20120409/305046/
今回の発表を受けて、株価は敏感に反応した。それまでシャープの株価は低迷していて、3月14日にAV事業・海外事業等を担当してきた奥田隆司常務執行役員が新社長に就任すると発表されても、株価は下落を続けた。
ところが、3月27日に鴻海との資本・業務提携が発表されると、株価は3月27日の495円(終値)から3月29日に一時619円まで跳ね上がった。
問題は、鴻海がシャープにとってプラスになることを本当にやってくれるのか、ということだ。今後の動きを読むためには、鴻海について冷静に分析する必要がある。
鴻海はかなり「したたか」な会社だ。EMSメーカーとして製品を作っているので、自社ブランドを持たない。自社ブランドを持つと 警戒されることをよく知っているので、鴻海は意図的に自社ブランドを持たないようにしている。
■絶えず販売機会をうかがう、狙いはアップルの新型テレビか
たとえば、鴻海はアメリカの液晶テレビメーカーのVIZIO(ビジオ)に出資し、製品をOEM供給している。そのビジオもまた台湾出身者が経営しておりアメリカの液晶テレビ市場であれよあれよという間にナンバーワンになった。
ソニーやパナソニックは50年以上にわたってアメリカでブラント構築をしてきたが、デジタルテレビでは差別化が難しい。ビジオは「安い方を選ぶのがアメリカの消費者だ」ということで、同じテレビなら3割安く、同じ値段なら一回り大きなテレビが買えるようにした。広告を打つまでもなく、この「知らないブランド」をアメリカ人がせっせと買ってしまったので、数年にして市場占有率が1位となってしまった。
もし将来、別の会社が新たなテレビ事業を米国で展開しようとしたときには、鴻海はその会社に対してもOEM供給ができる。ビジオというブランドを隠れ蓑にして、新たな事業展開も可能な半面、他の販売機会があればそこに対しても製品を提供する、というのが鴻海の今までのやり方なのだ。
現にゲームのコンソールで競っていた任天堂、ソニー、マイクロソフト(Xbox)のすべてにゲーム機を提供していたのもこの会社である。要するに「従業員100万人の世界最大の電子機器メーカー(しかも利益を出している)」というのが実態なのだ。
おそらく鴻海がシャープと資本業務提携した理由は、液晶パネルに強いシャープの技術力を活用して、アップルに新型テレビをOEM供給
するのが狙いではないかと考える。
鴻海とシャープの資本業務提携に加えて、鴻海の創業会長である郭台銘氏が、液晶パネルを製造する堺工場の事業運営を担当するシャープディスプレイプロダクト(SDP、大阪府堺市)に出資することも発表された。
SDPへの出資比率は、現状ではシャープ約93%、ソニー約7%。それが今後、シャープが約46.5%、郭台銘氏および他の投資法人が約46.5%、ソニーが約7%となる。これに伴い、SDPが生産する液晶パネルおよびモジュールの50%を、鴻海が引き取る。
このように鴻海および郭台銘氏は、シャープの資産や技術を目的にして資本業務提携を進めようとしている。シャープを救済するといった甘い内容ではなく、次第にシャープは鴻海および郭台銘氏に抵抗することができない立場になっていくのだ。
鴻海が顧客に液晶パネルを供給するためにシャープの工場を使うようなことになれば、シャープは実質的にOEMメーカーになってしまいかねない。
■具体的な契約内容は? 「いいとこ取り」を防ぐ契約になっているか
一方、今回の提携発表では明らかになっていないが、この50%買い取りに関して、もし鴻海が50%必要ないという状況になった場合、違反金を支払う条項があるのかどうかが問題である。
また、シャープの開発した新型のディスプレイが高いという場合、鴻海が他のメーカーに同じようなものを安く作らせることを禁止する条項もあるのかないのか。
こうした契約内容によっては開発力の強いシャープのいいとこ取りをして、ボリュームの大きな部分は中国で作らせるということも考えられる。
この「いいとこ取り」を防ぐ契約になっているかどうかがシャープの生死を分けることになる。
46%の株主はベトー権(拒否権)があるので、経営上の争いごとが発生した場合には抜き差しならない状態になる。シャープ本体は約10%だからまだ何とかなるだろうが、SDPの低操業度がシャープの赤字の大きな原因であり、本体の業績の足を引っ張っていたことを考えると、今回の提携はまさにシャープのアキレス腱治療を目的としながら、実際には殺傷与奪の権限を鴻海に与えた、と考えておかなくてはいけない。
郭台銘氏は強い個性を持つ経営者として知られており、アップルの故スティーブ・ジョブズとはウマがあった。ではシャープ側の話を丁寧に聞いてくれるかと言えば、そんな甘い人物ではない。
台湾国内でも経済界でのつきあいはほとんどなく、アメリカ(顧客)の方を向いて一直線という経営者だ。また深?にあるFOXCONNという子会社で従業員の自殺が相次ぎ中国でも「女工哀史」として大きな問題になったとき、「40万人もいれば統計的にはそのくらいの自殺者が出る」と発言して物議を醸した。
その後、トーンを修正し、いろいろな給料を倍にするなど改善策を実行しているが、実際には深?から成都などの内陸に展開し、深?は大幅に人員削減して人間をロボットで置き換えるなどの大胆な策(自殺防止策?)を展開している。
要するに、考えられるすべてのことを数カ月以内にやってしまう即断即決型の経営者で、シャープにとっては手ごわい相手になるだろう。
現状のシャープの立場からすれば、液晶パネル工場の操業損を鴻海が補填してくれて助かったという意識なのだろう。株式市場もシャープの 再生計画の一環として好感している。しかし、実態はかならずしもそうとは言い切れないところがある。
私は今後のシナリオを次のように見ている。
シャープの技術はジリジリと鴻海に搾り取られ、それが役に立つ間は提携関係が続くが、役に立たなくなったら提携関係は解消。気がついたらシャープは鴻海の設計・製造部門の下請け企業となり、自力更生が一層難しくなっている――。
もちろん、そんな事態にはなってほしくない。私はこれまで多くのチャイワン系企業を見てきたが、鴻海がもっとも手ごわい会社である。
家電量販店では(ヤマダ電機に打ちのめされて)中国のトップ量販店「蘇寧電器」に最初にクリンチしてしまったラオックスが中国市場で快進撃する姿を見て羨む声も少なくない。
パナソニック、ソニーなどの日本のAVメーカーもシャープと似たような窮地にある。トップの鴻海をシャープに取られてしまっては、残るところでこうした(力がありながら戦略と気概がない)日本の巨大企業を呑み込めるのは韓国のサムスン電子くらいしかない(鴻海よりもっときついパートナーだろう)。
そういう意味では真っ先に飛び込んだシャープがラッキーだった、と将来評価される可能性がゼロではない。それはひとえに鴻海と伍して、したたかにシャープらしさを維持していくことができるのかどうか、にかかっている。
つまり、これからは技術力や販売力よりも国際経営でのしたたかな経営判断と交渉力がシャープの命運を左右することになる。
(終わり)
孫孫受けになるのかぁ
返信削除シャープの販売戦略が嫌悪感しかないわ
返信削除何か優れている訳でもない物をブランドイメージと販売員のゴリ押し
何も知らないやつは大概シャープ