男(なぁ〜んてうたい文句に誘われて、ついついプレイすることになってしまったが)
男(ウワサによれば、開発者の怨念が詰まったゲームだとか……)
男(果たしてどうなることやら……)
男(ルール自体は単純だし、クリアする自信はあるけど……)
白衣B「こちらの部屋にどうぞ」
男「はい」
白衣B「説明書はちゃんと読みましたか?」
男「えぇ、大丈夫です」
白衣A「では始めてもらおう」
男「…………」ゴクッ
男「これが世界一のクソゲーか……」
男「見た目は……なんてこともないな」
男「フツーのディスクだ」
男「──って当たり前だけど」
男「とにかく……始めてみるか」
男「うわっ、なんだこりゃ!?」
男「いきなり格闘ゲームが始まったぞ!」
男「やべっ、ボタン押さなきゃ、ボタン!」
男「ええい、レバガチャだ!」カチャカチャ
男「なにい、こっちの攻撃はシッペだけかよ!?」カチャカチャ
男「しかも向こうは打撃、関節、寝技と多種多様の技を使ってくる!」カチャカチャ
男「どうなってんだ、これ!?」カチャカチャ
男「ていうか、減りすぎだろこれ!」カチャカチャ
男「もうとっくに死んでね!?」カチャカチャ
男「減りすぎてマイナスになって、表示が完全にバグってるし!」カチャカチャ
男「いつになったら俺のキャラはやられるの!?」カチャカチャ
男「え、これ、なに?」カチャカチャ
男「いつ終わんの、この戦い!?」カチャカチャ
男「俺の負けか……」
男「負けた悔しさより、戦いが終わったことへの安堵が完全に勝ってるな」
『KQ!』
男「京急!?」
男「もしかしてKOの間違いか!?」
男「しかも負けたのに得点が入りまくってるし」
男「なんなのこれ、どういうことなの」
男「名前入力画面が始まった!」
男「だれの名前だよ、これ。今操作した茶髪の空手家みたいなヤツか!?」
男「攻撃はシッペしかできなかったけど……」
男「えぇ〜と……」
男「あ、決める前に終わっちゃった!」
男「制限時間短すぎだろ!」
男「少しは悩ませろよ!」
男「そもそもこの数字は得点なのか……?」
男「いやぁ〜なにもかも意味分からん」
男「あぁ〜頭が混乱してきた!」
男「さすがは世界一のクソゲー!」
男「お、なんかムービーが始まった!」
男「棒人間みたいのが、ウネウネ動いてるだけじゃん!」
男「なんか洗脳されそうだよ!」
男「しかもボイス付き! しかも棒読み! しかも噛みまくり!」
男「絶対この声やってるの社員だろ!」
男「まあこんなクソゲーに声優なんて使えないわな」
男「……長いな」
男「終わんねぇ!」
男「もうそろそろプレイ始めてから10分になるけど」
男「半分以上、このムービーじゃねえか!」
男「なんだったんだ、いったい」
『あなたはもうこのゲームをクリアできません』
男「!?」
男「なんだこのメッセージ!」
男「早くも詰んだってか!?」
男「どんだけクソゲーだよ、オイ!」
男「まぁ俺だってこれまでも数々の難ゲーを攻略してきたゲーマーだ!」
男「負けねぇぞ!」
ムービーが終わってもうクリアできないっていうのは本当だったのか
男「2DのRPG……っぽいな」
男「主人公は……黒髪の男か? ──だよな!? グラフィック粗すぎ!」
男「さっきの空手家はなんだったワケ!?」
男「まあシッペしかできない奴よりはいいけどさ!」
男「つか、操作もっさりしすぎ!」
男「いや、もっさりなんてもんじゃねえ!」
男「キー入力から動くまでが数秒はズレてんぞ、これ!」
男「ここまでくると、時差だよ時差!」
男「話しかけてみるか」カチッ
男「……ん、ボタン押しても反応がない」
男「あ、そうか、説明書に書いてあったな」
男「波動拳コマンドで“話しかける”だったか」
男「めんどくせぇ!」
男「どんだけ強い奴に会いたいんだよ!」
通行人『邪雷王ギガースを倒すには七つの星が必要だ』
通行人『七つの星とは古代の賢者が作り上げた至宝だ』
男「うわ……なんかわけわからん設定が」
男「なんだよ邪雷王って……こいつがラスボスってことか?」
通行人『七つの星はブラックスター、シューティングスター、エメラルドスター』
通行人『スーパースター、ダイヤモンドスター、ファイナルスター、地獄星の七つ』
男「スターで統一しろや!」
通行人『ギガースには四天王という最強の部下がいて』
通行人『さらに四天王はそれぞれ五大幹部を従えている』
通行人『五大幹部の下には七大聖天使が存在する』
男「まさかこれ全員倒すの!?」
男「多すぎだろ……」
通行人『愚物粉砕拳を教えてもらうにはここから西へ行って』
通行人『“灼熱の滅王”ことピロリ世に会わねばならない』
男「いきなり固有名詞出すぎだろ……」
男「早くもストーリーについてけないんだけど……」
通行人『そしてピロリ世の許可をもらったら』
通行人『魔炎術と獄炎術により、運命(デスティニー)を融合させ』
通行人『ポーツマス神殿の紋章の上で聖なる儀式を行わねばならない』
男「専門用語ドバドバ出すぎだろ! もうなにがなんだか分かんねえよ!」
通行人『以上だ』
男「終わっちゃったよ!」
男「えぇと最初はどうすりゃいいんだっけ……?」
男「もう一回話しかけないと」
↓\→ + P
通行人『以上だ』
男「は!?」
↓\→ + P
通行人『以上だ』
男「はぁぁぁぁぁ!?」
男「『もう一度説明を聞くか?』とか」
男「せめて『まずは○○だな』くらいいってくれよ!」
男「メモ取ってなかった……どうしよう」
男「とりあえず……西、だよな」
男「汚物なんたら拳だかを会得するのに、西に行け、みたいな話だったよな」
男「あ〜……もうラスボスっぽいヤツの名前忘れたし」
男「まぁいいや、どうせまた名前出てくるだろ」
男「うわっ! なんだこの耳障りな音は!?」
男「──エンカウントだ!」
男「敵は……スライムが5体か」
男「グロテスクなスライムだな……グラフィック気合入りすぎだろ」
男「勝負方法は──」
男「チェス!?」
男「ロード時間なげぇし……めんどくせえ……!」
男「とりあえず、ポーン動かすか」
ビシッ!
男「!?」
男「えぇ〜! 駒動かすたびに敵にダメージが入るシステム!?」
男「チェスを介する必要性ないだろ!」
男「なんか適当にやったら勝てた……」
男「MINってのは多分WINだよな?」
男「朱元璋じゃないよな?」
男「まぁいいや、先に進み──」
ギギギギギ……
男「一歩進んだらまたエンカウントかよ!」
男「しかもいちいちチェスとか、冗談じゃねえぞ!」
男「あと、いちいち黒板ひっかく音みたいなエンカウントやめろ!」
男「この一時間は人生でもっとも無駄な時間だったと断言できる!」
男「対決方法は、チェスだったりオセロだったり将棋だったりしたけど」
男「結局やることは一緒だし!」
男「まあ今のところ何をしていいのかサッパリだから」
男「町の人に話しかけて情報収集するか……」
町民『俺と勝負するかい?』
はい
いいえ
男「なんでいきなり勝負なんだよ! いいえだ、いいえ!」
町民『俺と勝負するかい?』
男「無限ループかよ……せめてセリフ変えろよ」
男「『おっと逃がさないぜ』とかさぁ」
男「はい、だ!」
男「こいつもシッペしかできないし!」
男「ガンガン主人公の体力らしきものが減ってく!」
男「てか、町民強すぎ! もうお前が世界救えよ!」
男「うわ、あっさりやられた!」
『KQ!』
男「出たよKQ!」
男「しかも、やっぱり得点が入るしよ! もう1000万点超えたぞ!」
──
───
男「けっこう進んだな……」
男「げほっ、ごほっ」
男(ノドが痛い……最後まで持つか!?)
男「いや、大丈夫だ!」ゲホッ
男「やっと最初の中ボスか……」
男「うっわ、グロッ!」
男「脳みそから無数の眼球と触手が生えたような形状で、常に粘液を飛ばしている!」
男「さっきから敵はやたらグラフィックがすごいな!」
男「この労力を少しは主人公に回してやれよ!」
男「あ、一回動かしただけで倒せた! 見かけ倒しにもほどがあんぞ!」
男「得点も少ないし!」
男「ゲームバランスメチャクチャだな、オイ!」
中ボス『これで子供たちは解放してくれるんだな……!?』
主人公『しない』
中ボス『お、おのれぇ……グワァァァ……』シュウウ…
男「えぇ〜……事情がある系の敵だったのかよ……」
──
───
男「色々あって仲間が100人くらいになったけど」
男「100人ってのはまだいい」
男「実際、そんくらい仲間になるゲームもあるしな」
男「だけどさ……」
男「100人全員を主人公についてこさせるなよ!」
男「ただでさえスーパーもっさり操作なのに、処理落ちでひどいことになってんぞ!」
男「これフリーズとかしないだろうな、大丈夫だろうな!?」
男「道路が一本道だからまったく迷わなかったな」
男「にしても、ひっでぇなぁ」
男「多分もう終盤だと思うけど」
男「ダンジョンも町もほとんど最初のやつの使い回しだ」
男「というか、住民も敵も会話の内容すらも使い回しだ」
男「新しい土地にやってきても新鮮味ゼロ!」
男「さすが世界一のクソゲーだよまったく!」
男「雰囲気は不気味だが、BGMはサンバ……なめてんのか」
門番『ここは、門番であるワイが通さへんでぇ!』
男「なんで急に関西弁キャラが……」
男「しかも主人公とグラフィックが全く同じだし」
男「紛らわしい……」
男「よし、サクッと片付けるか」
男「HPを1ずつ削り合う超持久戦だった……」
男「三時間も戦ってしまった」
男「──ん!?」
男「なんか人の名前が流れ始めた!」
男「これは……」
男「これはまさか、スタッフロール!?」
男「え、え、え、え、え!?」
男「まさか、今の門番がラスボス!?」
男「なんという尻切れトンボ!」
男「なんも解決してないんだけど……いいのかよ、これ」
男(だが……終わった!)
男(こんなクソゲーを丸一日プレイしちゃったけど、その甲斐はあった!)
男(これで100万円は俺のモノ──!)
男「え!?」
『ここまでのストーリーはほんの序章に過ぎない』
男「はぁぁぁぁ!?」
『ディスク2に交換して下さい』
男「いや、ディスク2なんてねーぞ!?」
『やっぱりしなくていいです』
男「どっちだよ!」
男「──って、また得点が入った!」
男「え、なに、これ、もうどういうこと!?」
男「もう……もう……」
男「もう突っ込みきれない!」
男「──しまった!」
男「うっ!」ビクッ
男「体が……動かな……!」
男「うわぁぁぁぁぁぁ……!」
バシュゥゥゥゥゥ……
製作者が本気を出したのに糞だから価値があるんだ
惚れた
白衣A「……また、ダメだったか」
白衣B「えぇ」
白衣B「あのスタッフロールからの怒涛の展開についていけなかったようです」
白衣A「普通にプレイしていても死ぬほどつまらない上に」
白衣A「突っ込みきれなくなると、プレイヤーをどこかに消し去ってしまう」
白衣A「まったく……クソゲーにも程がある」
白衣B「はたしてこのゲームをクリアできる人はいるのでしょうか?」
白衣A「さぁな……」
白衣A「クリアしないと、仲間たちが救えないんだからな……」
白衣A「もっとも救える確証もないんだが……」
白衣B「えぇ、まさかこんなことになるなんて……」
白衣B「あれからもう、3年も経つんですね」
某大学ゲームサークルにて──
部長「ついに手に入れたぞ!」
副部長「え、なにをだ?」
部長「ある零細ゲーム会社が、社運を賭けて作り上げたという伝説のクソゲーだ!」
副部長「ホントかよ!」
部長「出荷本数なんてないに等しく」
部長「絶望した社員は全員自殺したという超いわくつきのソフトだ!」
部長「焦るな、まず説明書を読んでみよう」
部長「どれどれ……」ペラ…
副部長「ほとんどなにも書いてないな」
部長「人と会話するには波動拳コマンドってのと──あとは」
部長「“突っ込め”」
部長「これだけだ」
副部長「説明になってないな、さすが伝説のクソゲー」
部長「まあクソゲーなだけに説明書もクソなんだろう」
部長「とにかくプレイしてみよう」
副部長「ひどいな……」
後輩「まさしく伝説のクソゲーですね」
部長「……なるほど」
部長「ゲーム内容にどんどん突っ込んでいけばいいわけだ!」
副部長「まさかの音声認識!?」
部長「そう、そんな感じにだ」
部長「ようし、やってみるか」
部長「さすがに疲れてきた……ノドも痛いし、そろそろやめるか」
副部長「そうだな、もう大学も閉まる頃だ」
部長「セーブ機能もないし、このまま切るしかないか」
後輩「3時間もやったのに、もったいないですね」
部長「いい時間の無駄になったよ」
部長「じゃあ電源を切ろう」カチッ
部長「な、なんだ急に体が!? う、動かなく……!」
副部長「え」
後輩「へ?」
部長「うわぁぁぁぁぁ……!」
バシュゥゥゥゥゥ……
副部長「おい!?」
後輩「部長っ!?」
副部長「……消えちまった」
どこかで見た雰囲気だと思ったらそれか
──
───
白衣A「結局、部長は行方不明になり……」
白衣A「俺たちサークルのメンバーは」
白衣A「“こういうのはクリアすれば元に戻せるもんだ”とかいって」
白衣A「次々にゲームに挑んでは、ゲームに消されていった……」
白衣B「今やゲームサークルのメンバーで残ってるのは」
白衣B「あの時、部長が消えるのを見たボクたち二人だけですからね……」
白衣A「100万円なんて懸賞金をつけてプレイヤーを募集したが」
白衣A「結局だれもクリアできなかった……」
白衣B「プレイヤーのほとんどはゲーマーだったが──」
白衣B「中にはお笑い芸人志望、なんて人もいましたね」
白衣A「声がデカイだけで、すぐ消されてったな」
白衣B「さすがにこれ以上、事情を知らない人を犠牲にはできません」
白衣B「次はボクがやりますよ!」
白衣A「いやダメだ!」
白衣A「俺たちがこうやってプレイヤーを探すのに懸命になれるのも」
白衣A「二人で励まし合っているからだ!」
白衣A「もしどちらか一人きりになったら……怖くなって救出をやめてしまうか」
白衣A「あるいはヤケクソでゲームに挑んで消されるか……」
白衣A「もしそうなったら消えた人を救う道筋は完全についえることになる」
白衣A「……ゲームオーバーだ」
白衣B「怖くなって、こんなことやめてしまうかもしれません」
白衣A「俺だってそうだ」
白衣A「一人きりになったら、みんなを裏切ってしまいそうな自分が怖いんだ」
白衣A「とにかく……俺たちが挑むのは本当の最終手段だ」
白衣A「なんとか……クリアできる人を見つけよう! きっと見つかるはずだ!」
白衣B「はい!」
─
──
───
白衣A「あれから半年……」
白衣A「30人ほどがチャレンジャーとして名乗り出てくれたが」
白衣A「やはりみんな消えていった」
白衣A「しかも、世間じゃゲーム愛好家集団失踪事件なんて騒がれるようになった」
白衣A「これ以上時間はかけられない!」
白衣A「次は俺がやる」
白衣B「!」
白衣B「まだなんの糸口も見つかってないのに!」
白衣A「今までのプレイヤーの中で、最高プレイ時間は?」
白衣B「72時間です」
白衣B「ウトウトしたところで……突っ込みをしてない判定を喰らって──」
白衣A「ああ」
白衣A「このゲームの一番キツイところは」
白衣A「突っ込み続けることでも、ゲームがつまらないことでもない」
白衣A「中断が許されてないってことだ」
白衣A「会社も辞めてきた」
白衣B「えぇっ!?」
白衣A「俺の覚悟を見ろ」
白衣B「コーヒーと栄養ドリンクの山……」
白衣B「しかも、なんですかこの針は!?」
白衣A「眠たくなったら、自分を刺すためだ」
白衣B「そんなムチャな!」
白衣A「これぐらいしないと、この世界一のクソゲーはクリアできないさ」
白衣A「なんだこりゃ!?」
白衣A「さすがクソゲー!」
白衣A「なんでこの場面でこんな陽気なBGMなんだよ!」
白衣A「敵弱すぎだろ!」
白衣A「ジャンケンで世界の運命決めちゃ駄目だろ!」
白衣A「町の住民全員主人公とグラフィック同じかよ! クローンかよ!」ゴクゴク
白衣A「ムービー長すぎ! 飽きるわ!」
白衣A「今の選択肢、なんか意味あったか!?」
白衣A「なんだこの無駄なやり込み要素!」ゴクゴク
白衣A「だからこのエンカウント音やめろ!」
白衣A「なんだ、この眠たくなるような……展開……」ウト…
白衣A「ハッ──あぶねっ」グサッ
白衣A「いでぇっ!」
白衣A「眠くなるような展開にしてんじゃねえよ!」
白衣A「ぐっ……」クラッ
白衣A「いつ……まで続くん……だよ……」
白衣A「この……クソゲーは……」グサッ
白衣A「似たような……展開を……延々、と……」グサッ
白衣A「もう針の痛みにも……慣れ……ちまった……眠い……」
白衣B「ダメです!」
白衣B「寝ちゃダメですよ! 消されちゃいます!」
白衣A「悪い……」グラッ
白衣A「俺は……ここ、までだ……後は……た、の……」
バシュゥゥゥゥゥ……
白衣B「うわぁ〜〜〜〜〜!」
白衣B「ちくしょうっ!」
白衣B「一週間ぶっ続けでプレイしてもクリアできないなんて……」
白衣B「なんなんだよ、このクソゲーは!」
白衣B「クリアなんて絶対できないんじゃないか!」
白衣B「クリアできないのはゲームっていわないんだよ!」
白衣B「一人になったら怖くなって放置するかも、なんていったけど」
白衣B「そんなこと、できるわけがない!」
白衣B「こうなったらボクも──!」
白衣B(こうして自分でプレイするのは初めてだけど……)
白衣B(なんてつまらないゲームなんだ!)
白衣B(音楽、グラフィック、操作性、システム、ストーリー……全てがカンにさわる!)
白衣B(あ、ムービーが始まった)
白衣B(なんて……なんてひどいムービーなんだろう)
白衣B(こんな……)
白衣B(こんな下らないゲームに、みんなは消されてしまったというのか!?)
白衣B(ふざけるなっ!)
白衣B「10分もプレイする価値なんかないっ!」
白衣B「うわぁぁぁぁぁっ!」ガチャッ
ドゴンッ!
白衣B「ハァ……ハァ……ハァ……」
白衣B(ハハ、ハハハ……)
白衣B「ハハハハハ……!」
白衣B「これでボクも失踪者の仲間入りってわけだ」
白衣B「でもこんなクソゲーは、ゴミ箱に突っ込むくらいでちょうどいいんだ!」
白衣B「まともにプレイしてやることなんかないんだ!」
白衣B「ハハハハハッ!」
パアァァァァァ……
白衣B「な、なんだ!?」
白衣B「ゴミ箱に突っ込んだディスクが光り出して……!?」
クソゲー『ありがとう……』
白衣B「クソゲーがしゃべった!?」
クソゲー『よくぞこのゲームをクリアしてくれた……ありがとう』
クソゲー『コンセプトは“開始10分でゴミ箱に突っ込みたくなるようなクソゲー”』
クソゲー『もはや倒産を待つのみだった彼らの、最後の意地だったのだ』
クソゲー『自分たちのゲームは世の中にウケなかった』
クソゲー『ならばいっそ最悪のゲームを世に出して、最期を飾ろう、と……』
クソゲー『しかし……この最後の作品はほとんど世に出回ることはなかった』
クソゲー『おそらく現存しているのは私のみだろう』
クソゲー『最後の意地が空回りに終わったスタッフは……全員自ら命を絶った』
クソゲー『そして……彼らの怨念が、私に宿ったのだ』
クソゲー『悪魔の力が備わってしまった』
クソゲー『開発者の想いを満たせなかったプレイヤーを異次元へ消し去るという力が……』
白衣B「開発者の想い……」
白衣B「──そうか!」
白衣B「このゲームのクリア条件は」
白衣B「“プレイ開始10分以内にディスクをゴミ箱に突っ込むこと”だったのか!」
クソゲー『説明書の“突っ込め”とは、“ツッコミ”のことではない』
クソゲー『文字通り、ゴミ箱かなにかにゲームを突っ込め、ということだったのだ』
白衣B「そうだったのか……」
白衣B「つまり、最初のムービー後に出てくる……」
白衣B「“もうあなたはクリアできない”ってのは──」
クソゲー『ああ、挑発でも嫌がらせでもなく』
クソゲー『クリア不可能になったことを知らせるメッセージだったのだ』
クソゲー『しかし、君のおかげで私に宿っていたスタッフの怨念は満足したようだ』
クソゲー『心から礼をいう』
白衣B「…………」
クソゲー『そうなれば、今まで異次元に飛ばされていたプレイヤーたちも』
クソゲー『元に戻れることだろう』
白衣B「最後に一ついいかな、クソゲー」
クソゲー『なんだ?』
白衣B「もし伝えることができるなら、あなたを作った人たちに伝えてくれ」
白衣B「あなたたちの作ったゲームは、文句無しに世界一のクソゲーだったと」
クソゲー『…………』
クソゲー『ありがとう』
クソゲー『異次元に飛ばされていた者全員に、私の最後の力で恩恵を授けよう』
クソゲー『おそらくプレイ時間やプレイスタイルを反映した能力を得られるだろう』
クソゲー『では、さらばだ……』
パキィィィン!
白衣B(ディスクが……!)
白衣B(さよなら……世界一のクソゲー……)
──
───
白衣B(こうして全てが元通りになった……)
白衣B(消えた人たちに、消えていた最中の記憶はなかった)
白衣B(長時間消えていた人たちが社会に順応するのは大変だったが)
白衣B(みんななにかしらの能力を授かっていたので、なんとかなったようだ)
白衣B(例えば副部長なんかは……なぜか裁縫が得意になっており)
白衣B(現在その方面で大活躍しているとか……)
白衣B(ちなみにボクはというと、クリアしてしまったので能力は得られず)
白衣B(100万円もとても受け取る気にはなれなかったので、断ってしまった)
白衣B(世界一のクソゲーを攻略したという自信が、ボクを突き動かすのだ)
白衣B(世界一面白いゲームを作ってみせろと!)
白衣B(いつかきっと……)
白衣B(ボクに自信をくれた世界一のクソゲーに、胸を張れるように──)
おわり
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